ルーン文字、それは古代ヨーロッパで使われていた実在の文字。成立時期は紀元2世紀前後と言われているが、正確な成立地域や年代は不明で、字母の借用系統にも確定的な学説は存在しない。出土した銘文の地域分布などから、当時ガリア・フリジアと呼ばれていた、アルプス山脈以北の地域で生まれたものだと推定されている。文字体系はラテン文字と同じアルファベット方式で、使われていた年代と地域によって異なるが、少なくとも16から33種類の字母が存在する。
字形の類似点が多いことから、当時ガリアに居住していたゲルマン人たちが、イタリア半島で使われていたいずれかの文字(ギリシア文字、エトルリア文字、ラテン文字)を借用し、自分たちの文字を成立させたというのが、現在の主流な学説である。
西ローマ滅亡後、キリスト教の拡大と共に西欧世界の文字はラテン文字で統一され、ルーン文字の使用は、北欧やアイスランドなど非キリスト教圏の北方地域へと範囲を狭めていった。10世紀頃、その蛮勇でヨーロッパ中に名を轟かせたヴァイキングたちもその使用者である。彼らは戦神オーディンの加護をその身に受けるべく、自らの武具や装飾品にルーンを刻んで戦いに臨んだ。歴史上最古のルーン銘文である『ヴィモーセの櫛』がそうであるように、当時、ルーン文字は文章を書き記す目的よりもむしろ、所有者を表す刻印や、退魔の呪いの役割を担っていた。
今日、ルーン文字が神秘の文字と呼ばれる所以はその希少性による。ラテン文字で記述された同時代の文献が山ほど残されているのに対し、ルーン文字で書かれた銘文は5千点ほどしか残されていない。それらの多くはスウェーデンに存在し、ほとんどが碑文として岩に刻まれている。
ルーン文字は西欧世界でその使用が完全に途絶えた中世後期、当世の一部の人間たちによって『再発見』された。それは黒魔術や錬金術といった似非科学を信仰していた神秘主義者たちである(当時はそれらも科学の一部と考えられていた)。彼らは自分たちの文字に似て非なるルーンに特別な呪術性を見出し、魔法の宿る神秘の文字と考えるようになった。その文字たちが実際には、日用品に所有者の名前を刻むような、ごく世俗的な役割であったにもかかわらずである。
現代においては、ルーン文字は完全に過去の遺物とみなされ、ルーンを使って日常的に文章を書き記す人々は(その熱心な愛好家を除けば)どこにも存在しない。ミステリアスなアクセサリーや、ロマンチックな占星術の読本に、その不思議な形だけが残るばかりである。
「……ダメだ、目が滑る。ユキ、代わりに読んでくれ」
「えっ、わたし?」
僕は広げていた本から目を離し、隣を歩いているユキに手渡した。ユキは驚きながらも本を受け取り、僕の読みかけのページをめくって次の文章を朗読した。
「ええと、『一方、フィクションの世界においてはその位置づけは一変する。かの有名な魔法ファンタジー作品である『指輪物語』の著者J.R.R.トールキンは熱心なルーン研究家として知られ、自作に好んでルーン文字を登場させた(驚くべきことに、彼の創作したオリジナルのルーン文字のいくつかは、後にUnicodeとして登録され、コンピューターが取り扱える正式な文字になってしまった)。以降、フィクショナルな文脈において魔法とルーン文字は切っても切れない関係となり、『ハリー・ポッター』を始めとする現代のファンタジー作品にもこぞって登場するようになった』……」
「いや、別に読んでくれって、そういう意味じゃないんだけど……」
「え? そ、そうなの? わたし、てっきり……」
丁寧に僕の読んでいたページの続きを読み上げてくれたユキは、恥ずかしそうに本で顔を隠した。あの後、手詰まりになった僕たちは「まあまあ、煮詰まってもいい考えは浮かびませんし、みんなでお茶でも飲みませんか?」というヒナタの提案に乗ることにした。僕とユキはじゃんけんで負けて、彼らに頼まれたお茶菓子の買い出しに来ていた。
「——『へい、ゆきひめ。ルーン文字についてもっと詳しく教えて』」
そんな僕たちの後ろから、AIアシスタントに呼び掛けるように陽気な声が聞こえてくる。呆れ顔で振り返ると、特大のコーンアイスをかじりながら後ろをついてくる中村さんの姿があった。
「うう。だから中村さんまで、その名前で呼ばないでって言ったじゃないですか……」
ユキの本名は雪姫といい、『ゆき』の部分は『ゆきひめ』とも読めることから、よく病院や役所などで呼び間違えられているらしい。あまねはそのお姫様のように可愛らしい名前を気に入り、たびたび彼女を『ゆきひめちゃん』と呼んでからかっていたが、当のユキ本人は、そのキラキラした字面と実際の自分とのギャップを気にしているようだった。
「もう、中村さんの本なんですから、中村さんが持っててください!」
ユキは珍しく怒った様子で、顔を隠していた『世界の文字:ルーン文字編』を閉じて中村さんに押し付けた。
「ていうか中村さん、何でそんな難しい本持ってるんですか?」
「あん? ルーン文字はオタクの嗜みだろーが。んな当たり前のこと聞くな」
中村さんは器用に片手で開いた本を持ちながら、片手でチョコレートのついたバニラ部分をもぐもぐ食べた。全く当たり前じゃないし、そもそも僕はオタクじゃない。
「ったく、最近のガキはルーン文字も知らねーのかよ。嗚呼、嘆かわしきや現代クソ教育」
たぶん、『現代』という言葉が存在したどの時代でもそんなこと教えてなかったと思う。
「トモくん、これ見て。ほら、こういうやつだよ。見たことあるでしょ?」
ユキはスマホを開いてアニメのスクリーンショットを見せてくれた。とんがり帽子とローブをまとった魔法使いのキャラクターの指先で、紅く光るルーン文字が円形の紋様を描いている。
「ああ、魔法陣っていうんだよな? こういうの」
「うん。その他にも魔術書とか呪符とかのデザインにもよく使われてるよね」
「へー。これ何て書いてあるんだ? 使われてた文字なら、ちゃんと意味あるんだろ?」
「え? ううん、分かんない。中村さん、読めますか?」
「あ? んなもんねーに決まってんだろ。とりあえず雰囲気出てりゃいいんだから」
「いや、雰囲気って……でも実際に使われてた文字なんですよね? ずっと昔に」
「ああ。だけど魔法だの神秘だなんてのは後世のこじつけだぜ。文字体系だってラテン文字とほぼ変わらんアルファベットだったから、あっけなく同化されちまったんだし」
「じゃあ、なんでそんなによくフィクションの中で使われてるんですか?」
「知らねーよ。世界中のどこでも、見知らぬ文字に対する憧れみてーなのがあんだろ。あー、一昔前は浅草とかにいっぱい居たなー。『激熱友情』みたいなクソだせえ漢字Tシャツ着た外人。おーいぇ、スーパーホット・フレンドシップ、FOOÓ!!」
「ええー。中村さん、なんですかそれ。嘘でしょう?」
「嘘じゃねーよ。ホントだって、ホント。ホントに居たんだって」
無駄に流暢な発音で真偽が怪しいエピソードを披露する中村さんと、それを見てくすくすと笑うユキ。創作畑の住民だからか、二人ともこういう話題ではとても仲が良い。
「じゃあ、今もルーン文字を使ってる国ってないんですか? 世界中のどこにも?」
「『はい。現代でルーン文字を日常的に用いる国や民族はどこにもありません』」
出来の悪いAIチャットのように、真偽が怪しい内容をしれっと断言する中村さん。
「いや、居るじゃないですか。今、僕たちのラボに、一人」
「あのな……。だからそれがおかしいって話をしてんだろ。ただでさえ見た目が魔法使いな子が、いきなりルーン文字を書き始めたんだぞ。まず正気を疑うのがフツーだろ」
小ボケを拾ってもらえず萎えたのか、彼はつまらなそうにスマホを弄りだした。あれから、僕たちはエリシアに名前以外にも様々な文章を書いてもらった。中村さんは当初、そんな彼女にギンギンの疑いの眼差しを向けていたが、すぐに白旗を上げた。
「いやー……まじで何なんだあいつ。でっち上げ設定にしては文字書くのうますぎだろ」
エリシアは僕たち以上に文字を『書く』ことに慣れているようで、カリカリと流麗な筆跡でルーン文字の文章を書き記していった。
傍から見ても、彼女がでたらめにペンを走らせているようには見えなかったし、中村さんいわく、彼女が口にする『エリシア語』の音と文字の間には、一定の対応関係が見られたらしい。にもかかわらず、彼が千手観音のように繰り出すどんな専門的な文字認識アプリにも、エリシアの文字は検出されなかった。それもそのはず——筆記体のルーン文字など歴史上どこにも存在しないというのだ。
「それにしても、これこれこう、で『エリシア』? うーん、全然読めないな」
「あれ、トモくん、覚えちゃったの? すごいね、あんなに難しいのに」
僕が手のひらにルーンをなぞりながら呟くと、ユキが驚いたように言った。
「音素と字母の対応はめちゃくちゃだけどな。子音の次に母音もきてねーし。『いぇ』とか聞こえたけど、これ円唇前舌狭母音じゃねーし」
中村さんはスマホと本を見比べながら、また怪しげな呪文を唱えた。
「これとこれ、あとこれも……おいー、どこに載ってんだよ、こいつらはよ」
ルーン文字は言語学的には未解明ではなく、全ての時代の文字と文章の読み方が分かっているらしい。だが、エリシアが最初に書いてみせた7つの文字たち——『エリシア』と読むらしい——には、彼も知らない新種のルーンが3つも含まれていたのである。
「これってどういうことなのかな。トモくん、わたし、ちょっと怖くなってきちゃった」
「ほんとだよ。お前、どうすんだ? あいつが異世界から来た魔法使いだったりしたら」
「どうもしませんよ。ただ単に、どっかにそういう国があるってだけの話でしょう?」
僕は呆れながら相槌を打った。何だか話が明後日の方向に進みかけている気がする。
「あったらあったで色々とヤバいだろーが。間違いなく世界的なニュースになるぞ」
「なりませんよ。だってここに居るんだから。ちゃんと飛行機にも乗れたんですよ」
僕は溜息を吐いて空を見上げた。白い飛行機雲が、北の空へ向かってまっすぐに伸びていた。空港がすぐ近くにあるから、東京ではいつも飛行機雲が見える。それは僕の故郷の空には無かったものの一つだった。
「エリシアは記憶喪失で迷子なんです。……助けてあげなきゃ可哀想ですよ」
僕は目を地面に落としてポツリと呟いた。ここ、と僕は思った。
「そりゃ立派な心がけだが。で、もし本当じゃなかった時はどうすんだ?」
「もし……って、何ですかそれ。中村さん、それどういう意味ですか?」
中村さんはやけに意味深な物言いをした。僕は思わずムッとして立ち止まった。
「なあ、ここはどこだ? 天下の秋葉原だぜ。ちょっと路地裏の奥を覗けば、ヒナタみたいな——あいつはマトモな部類だが——痛え連中は掃いて捨てるほど居んだ。お星さまから怪電波を受信して、自分のことを宇宙人だと信じて疑わないような、やべー奴とかな」
「エリシアはそんなんじゃないですよ。中村さんだって見たでしょ。あの子は普通にいい子ですよ。ていうか、中村さんなんかより何倍も素直で可愛い子じゃないですか。エリシアが嘘を吐いて僕たちを騙してるなんてこと——絶対にないですよ」
そうじゃないなら一体、何だというのだ——そんな非難の視線で彼をじっと睨んでいると、彼はスッと目を瞑って、開いていた本をパタンと閉じた。
「……合格だ。よく言ったトモヤ。それでこそ俺の弟子だ」
「は?」僕は腹の底からそんな間抜けな声を出してしまった。
「中村流創作術〝其の四〟——『どっち付かずの設定はおもしれー方に解釈しろ』」
「なんですかそれ、今初めて聞きましたよ。てか弟子入りなんかしてませんし!」
意地の悪い圧迫面接の試験官のようなことを言い出す中村さんに、僕は噛みつく。
「いやー、映画とか見てるとさ、イマイチ納得のいかねえキャラの台詞とか行動ってあるじゃん。『なんでそこでそんなことすんだよ』みたいな。まあ、そういうのは大概が『作者もそこまで考えてない』系のアレではあんだが、そこで試されるのが真のオタクの想像力ってもんだろ?『いやいや、あいつはきっとこうだからあの時こうして……』と鑑賞後にひとり妄想をしたためるのが、クリエーターへの第一歩ってわけだ」
——スタッ。中村さんは滔々と語り終えると、往来のど真ん中で急に立ち止まった。
「好意的解釈は世界を救う——覚えとけ、いつかきっと役に立つ!」
ビシッ——。彼は人目をはばかることなく、天高く指差して高らかに宣言した。
「ちなみに、一から三までは何なんですか?」ユキが苦笑交じりに尋ねる。
「うむ。中村流創作術はアチーブメント形式だ。他は自分でアンロックしろ」
功夫の師範のようにどっしりと腕を組んで自説を語る中村さんと、素なのかボケてるのか分かりにくい反応をするユキ。彼は一般的な知識も広いが、特にフィクション関係の創作理論に造詣が深く、よくこうして『映画の見方』的な講座を突発的に開いた。
フィクションを見て、ただ『面白い』か『つまらない』の二種類の感想しか持たない僕とは違って、彼は作品を成立させる『構造』や『面白さ』を理論立てて分析することを好んだ。作品の展開に一喜一憂して、キャラクターのカッコよさや可愛さを感じられれば満足——という僕の姿勢を、彼は「浅え」とか「甘え」とか言ってしきりに正してきた。
なぜ彼がそんなことをしたがるのかは全くの謎——ではなく、ただ単に本で得た知識をひけらかしたいだけなのだ。さすが自他ともに認める〝硬派〟オタク——やれやれ。
「で、それを踏まえた話なんだが。お前ら……あいつに『何か』足りねーと思わねーか?」
再び歩き出してすぐ、中村さんが意味ありげな質問を僕たちに投げ掛けてきた。
「そりゃ思いますよ。ていうか『何もかも』の間違いじゃないですか? それ」
「あのな……。お前はさっきの授業で何を聞いてたんだよ。お師さんをがっかりさせるな」
「おっさん?」僕がチラッと冷たい視線を振り返ると、彼はギクッと小さくたじろいだ。
「あー分かった分かった!『魔法道具』だよ。ったく、ネタバレ小僧め……」
「『魔法道具』……?」
そのあまりにも突拍子のない彼の発言に、僕はまた足を止めてしまった。冗談かと思いきや、そう言った中村さんの顔は真剣そのものだった。
「なんですかそれ……そんな、子供じゃあるまいし」
「いいか、冷静に考えてもみろ。あいつが何者だろうと、わざわざアキバに来てまで『ああいう格好』をしてるってことは、そこにぜってー何か理由があるはずなんだよ」
「まあ、そうですね。銀色の髪に紅い瞳、とんがり帽子に黒のローブ。誰もがひと目で魔法使いって分かる姿をしてますからね。エリシアは……」
「……ん? 何だそれ? お前……今なんて言った?」
僕が何の気無しにそう言うと、中村さんはなぜか怪訝そうに眉をひそめた。
「何って……。僕、なんか変なこと言いました?」
「いや、別に。でもなんか急にポエミーなこと言わなかったか? サラッと」
振り返ると、彼だけでなくユキも不思議な顔をしていた。どんなと言うのも難しいけど、驚きと困惑、称賛と新鮮さが入り混じったような、そんな絶妙に変な顔だった。
「ただ思い付いたことを言っただけですよ。ユキ、そんな変な言葉だったか?」
「う、ううん。全然、変とかじゃないけど……」
ユキは困惑した様子のまま言葉尻をすぼめた。それはそう言った彼女自身、なぜそう感じているのか分かっていないような、そんなひどく不自然な反応だった。
「……それで、魔法のアイテムがなんでしたっけ?」
僕はその場に滞留した気まずい空気を払うように、半ば強引に話の筋を戻した。
「ああ。だからさ、あのカッコには元キャラがあんじゃねーか、って話なんだよ」
「元キャラ……?」
「そうそう。あんだけ完璧なカッコをしてんだぜ。ぜってー何かの作品に出てくるキャラのはずなんだよ。なあユキ、お前もそう思うだろ?」
「はい。でも、パッと考えても思い付かないんですよね……なんでだろう?」
「それだよ。それが違和感の原因なんだよ。俺が思うに、あいつ記憶を失くす前に何かを持ってたと思うんだよな。箒とか杖とか、そういう元ネタに繋がる『何か』をさ」
「そうですよね。ああいう見た目だと、似たようなキャラってたくさん居ますし」
ユキはスマホのキャラ検索サイトを開いて、エリシアに似た特徴のキャラを見つけようと頑張っていた。チラッと覗き込むと、髪の色や目の色だけがエリシアによく似た、知らないアニメの知らないキャラがたくさん見えた。
だが、そのどれもエリシアとは似ても似つかない——というより、中途半端に似ているがゆえに余計に偽物感のある——イラストばかりだった。
「そんなことして何になるっていうんですか。コスプレの元ネタなんか探してる暇があったら、まずパスポートとか財布とか、身元に繋がるものを見つけましょうよ」
「どこ行ったのか分かんねーモンを探すより、記憶を戻した方が手っ取り早いだろ。記憶喪失ってのは、何のきっかけで元に戻るか分かんねーんだ。あいつ自身に繋がる手がかりを見つけて見せりゃ、それで何かを思い出すかもしれねーだろ?」
中村さんは自信たっぷりに語った。そんな風に言われると、不思議と確かにそうかもしれないと感じてしまう。
「あの髪飾りはどうなんです? あれ、何かのブランド品じゃないんですか?」
「ううん。写真を撮らせてもらったけど、画像検索には引っ掛からなかったよ。珍しい形のお花だったから、それも手がかりになるかと思ったんだけど……」
ユキがスマホの画像検索の結果を見せてくれる。彼女の言う通り、似た形をしたアクセサリーやコサージュはいくらでも見つかるのに、エリシアの髪飾りと完璧に同じものは一つとして見つからなかった。
「単に実在する花じゃないってことだろ。案外、自分で作ったんじゃねーか? 無いモンを自作するのはレイヤーの嗜みだって、ヒナタも言ってたし」
そんな手作り感あふれる代物だっただろうか——と僕は疑問を抱いた。直に触れたわけではないから分からないけど、パッと見たところでは、ガラス細工のようにとても繊細な作りに見えた。
「ま、ラボに戻ったら色々見せてみようぜ。その手のモンならあそこにはいくらでもあるからな」
中村さんは僕の頭にルーン文字の本をポンと載せると、そのままスタスタと先に行ってしまった。僕はスルッと手元に落ちてきた本の表紙を見つめた。魔法が宿るという神秘の文字——ルーン文字。それを自由自在に書くことのできるエリシアは、本当にこの世界の人間なのだろうか。
——エリシア、君は本物の魔法使いなのか?
僕は誰に言うこともない言葉をまた心の中で唱えた。